2022-01-01から1年間の記事一覧

忘れられない夜を身代わりに

古い知人が亡くなった。自死だそうだ。 彼の死を知ったのは友人たちが調べて分かったことだった。沢山の困難と、苦悩を抱えてひっそりと誰にも言わずに逝った。 僕は初めて会った日の彼をよく覚えている。学校の後輩で、ヤンチャで危なっかしい人だった。 多…

明日を思うのが苦手な僕ら

春先の移動にはバスを使うのが好きだ。バスの窓から見える川沿いの桜が少しずつ芽吹いてゆくのを、暖かくなった日差しを浴びながら、橋を渡る人々を眺めて、何か昔の思い出と結びつけながら、明日に期待をする。開けた川沿いの公園から雑然と整列したビル街…

徒花のはなむけ

多分、去年私は16年の付き合いの遊敵を失った。 ずっと共に働いたが同僚と呼ぶには土足で、友と呼ぶには不道徳すぎるそんな間柄だから多分、遊敵と呼ぶのがいいだろう。お互いに辟易して2年も話さなかったり、毎時間連絡したり、そんな極端な相手だが多分、1…

色喰狂いの弔い

今朝、父を焼いてきたんです。 シャワーから出た僕に、目の前の裸の男は言いにくそうな気持を隠すようにけらけらと笑いながら言った。 「何かあったんだろうなとは思っていました」と言いながら彼の背に手を回した。 腕の中でくぐもった声で父が亡くなってか…