未来になれなかったあの夜に

放課後の音楽室で1人ピアノを弾いてた彼は、僕に気が付くと手招きしてきた。向かいの机に座ってピアノを聴いてた。鳴り止んだピアノを見ながら将来の話をした。「音楽をやれたらいいな」って笑いながら言ってた彼は数年後、東京のビルから飛び降りた。

なんでだよと僕が叫んだら幼馴染の女の子が「同級生の男子からから性的なことされて苦しんでた。それを慰めたくて私も抱かれてた。あんたが純粋に男が好きなの見て少し羨ましく思ってたよ。」と言った。僕は加害者でも被害者でもなくただの傍観者でしかなかったのに。誰が悪いなんてあるんだろうか?そんな話の後に自分の恋人の話なんてできなかった。ゲイであることも曖昧で性的な快楽と解消をしながら生きる何かが憎くて、故郷を恨んだ。

 

初めて見たライブで声をかけてきたあなたは、僕に頭突きをしながら「今度抱かせろよ」と言ってギターをかき鳴らした。忘れられない衝撃を残したあなたはヤクにキまったまま逝った。あなたをずっと葉桜と一緒に思い出すんだよ。

どうして葉桜には別れが一緒に来るんでしょう?教えてよ。

 

送り返された合鍵で開けた部屋は暗い。

同じ鍵のはずなのに回すのが重い。多分重さなんてない。心の問題だと思いながら、帰りたくない部屋に戻れば、明かりでさえ僕が灯すしかない。

君の匂いさえない部屋は昔の僕の部屋なのに、ひどく虚しい。

こんなに帰りたくない夜はないだろうと思いながら、誤魔化すために買った酒を煽る。

「取り立てるほど不幸ではない」

その通りだ。取るに足らないどこにでもある、どこかにある日常に過ぎない。もがき苦しむなんてちゃんちゃら可笑しくて自嘲が止まらない。早過ぎたとか、遅過ぎたとかそんなことはどっちでもいいけど、ただただ寂しいんだと思う。

 

故郷を愛せる人を、常に羨ましく思う。

愛しても愛しきれない、裏切り者と言われ続けても無視して生きる胆力を身につけるためにここに腰を据えたいと思っていた。狭い1DKの部屋は虚しく、古い家具が軋む。貰い物ばかりの部屋で、青い慟哭ばかり叫んで生きる日々で、ここから飛び降りる覚悟もなく、理由すらない。これで満足だと言わんばかりの今日だ。何も不満はないはずなのに、今日だけは帰りたくなかった。泣きながらキッチンに座る。咽び泣く、過去を。これでも意味があるんだって思う無神経さを嘲笑う。たった数行の手紙で、感情にピントが合う。もう2度と聞こえない声を思い出して泣く。全部忘れられたらいいのと思うのに、忘れたくない。

僕がいなくても叶う幸せな未来を願いながら、君を忘れないから叶う未来を信じてる、嘘みたいな話。寂しいを変える思い出を、残して欲しかった。

 

葉桜なんて嫌いだと言いながら、新緑を謳う。夏が来ればきっと忘れてまた色付くんだろう。

 

でもね、本当に好きだったんだよ。