2021-01-01から1年間の記事一覧

想偲び

友人が1年ぶりくらいにデートをしたと言う。 「すごい楽しかった。」と言う彼は居酒屋で呑んできたらしく、陽気に話した。 『よかったじゃん』と告げると「まぁ、でもこれからどうなるかわからないし、何より相手さ、前付き合ってた人6年付き合ってたんだっ…

あなただけがあなたの物語を書けるのよ。

駅の構内を歩いているときに、床のタイルが端のほうだけ黒ずんでいるのを見て不思議に思う。 人通りの多い真ん中の部分が、白く新しくも見える。人の歩かないところの方が黒ずんでいる方が本来の色なのかと見紛ってしまう。 いつかこのタイルの上に横になる…

利己的な号哭

「大阪で何してるの?楽しいの?」 3年前に18離れた従妹に聞かれたときに、 「それなりに楽しいよ。沢山の人がいるから面倒なことも多いし、お金はないけどね!」 と自嘲的に言ったことを憶えている。 私が地元を離れる数年前に生まれた従妹とは、離れていたこ…

電話ボックスと情事

中学に上がった初夏。 眩しい日差しの中、自転車で町の方にある友人の向かった。生まれ育った島は人口5000人程度。大阪の環状線とほぼ同じ大きさの島だ。町と言ってもスーパーが2件、ホームセンター1件、文房具本屋があるだけで、あとは観光業のお土産屋ばか…

好き嫌いの縄張り意識

ある人の葬儀の際に、さほど親しくなかったであろう人が嘆き悲しみ落ち込んでいる姿を見て「この人、見舞いにすら来なかったのに」と自分でも嫌なやつだと思うほどに心で悪態をつくことがあった。 1番大変な時に来なかったくせに。とか、共同事業の時も途中…

ただこの目にうつるだけでいい。

人の狂気が人を追い詰めるのは、何もそう大仰なことではなく、日常に粛々と存在していて、少しずつ蝕んでいく。 誰かに対する怒りとか、果たされない約束とか、叶わない願いとか、そういうものが少しずつ積み重なって言葉になって、人を追い込んでいく。 望…

耳を塞いで暗闇をゆく

子供の頃はとても怖がりだった。運動神経が悪いことも、街頭のない田舎に生まれ育ったことも起因すると思うけれど、得体の知れない何かがこの世に渦巻いていてそれらにとって食われることが純粋に怖かったんだと思う。 「そろそろ俺は引退しようと思うから帰…